「真実の10メートル手前」米澤穂信
米澤穂信の最新作。
ストーリー要約→感想
※ネタバレたくさんあります
・真実の10メートル手前
表題作。多額の負債を抱え経営破綻した会社社長・早坂一太と、その妹でもあり会社の広報を務めていた真里が失踪した。計画倒産の疑いがかかる二人の行方を太刀洗とその後輩・藤沢が追う。2人の妹と真里の会話の録音記録から大まかな真里の居場所を推理した太刀洗は真里の最後の会話相手と思われるフィリピン人を見つけ出し真里の潜伏先を聞き出した。しかし2人が向かった先にあったのは目張りされた車の中に横たわる真里の亡骸であった。
伏線の張り方が上手。
久しぶりにミステリーを読んだので、
「ああそうだこの人の作品は斜め読みしちゃ置いてかれるんだった」と再認識。
太刀洗の洞察力や一つのストーリーラインに結びつける推理力にしばしば読者は置いてけぼりにされるが、そのたび藤沢のような察しの悪い読者役が逐一太刀洗にクエスチョンを投げてくれるので親切設計。
わずかなセンテンスから読み取れる膨大な情報量を秩序立てて積み上げ一つの結論を導くこの構成は古典部シリーズの「こころあたりのあるものは」を彷彿とさせた。
フィリピン人のフェルナンド、不法入国でビビってたのはわかるがなんでそんな真理の肩持つんだお前。
・正義漢
中央線のホームで人身事故が起きた。たまたま居合わせた太刀洗は事故前の被害者の様子から事故ではなく殺人事件と推察。突発的かつ通り魔的犯罪であることも鑑み、自ら傍若無人で傍迷惑な記者を演じねじ曲がった正義感を振りかざす犯人をおびき出した。
構成が面白い。犯人視点のくせに直前に自らが起こした犯罪については、被害者に執拗に毒付くだけで、言及しないあたりもリアルで恐ろしい。
かなりやべえやつだ。
「これは太刀洗主軸の短編集だ」と意識にはあるものの、犯人視点の太刀洗と思しき女記者はどうにも自分の描いてる太刀洗像と乖離しており、その違和感が文章にのめり込ませてくれた。
これまたクエスチョンを投げかけてくれる記者役は「さよなら妖精」のあいつだろうか。
なんだっけ、名前忘れちゃった。
・恋累心中
高校生男女2人による心中事件を取材するために都留は三重の恋累へ向かい、そこで別件を調査中である太刀洗と合流した。遺体がバラバラの場所で発見されたことや、まだマスコミにリークされていない二人の遺書の続きなどの情報から太刀洗は容疑者を特定。先に追っていた教育委員会へ発火物が届けられていた脅迫事件と心中事件を結びつけ事件の全貌を暴き、容疑者逮捕の瞬間をカメラに抑えることに成功した。
すごい好き。
物語の転換点として遺書の「助けて」がよく効いている。
そのあたりからちょっと温度が変わった。
物語の進行速度を読者の想像が飛び越えていくようないい謎だと思った。
犯人以外に変なやつが何人もいるととっちらかりそうだけど、
高校生カップルの二人が行かれた行為を犯しつつ、
しっかり人物像が見えてよかった。
なんか納得してしまうんだよなぁ。
・ナイフを失われた思い出の中に
いや、めっちゃ難しいことやるやん。
事件とトリック(暗号文)ってのがまずあって、そこに太刀洗とマーヤ姉の関係性が絡まり合って、さらに太刀洗のスタンスとか行動理念を重ねてる。
これは話作る人間からしてみればウルトラCなことやってますよ。
半端ですが以上で